イーガンとの訣別(2)

 ごきげんうるわしゅう。Pです。面接は返事の電話待ちです。
 前回、また自分のことにかまけて、イーガンの短篇集『プランク・ダイヴ』自体のことをサラっとでもフレてなかったから、なんのこっちゃ、って感じかもしれないので、ちょっとなんか書こうと思います。つっても、まだ半分くらいしか読んでないんですけど。

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)


 ふんいきをザッとわかっていただくため、アマゾンの内容紹介をそのままペーコピしたいと思います。

地球から遙か遠宇宙のブラックホール〈チャンドラセカール〉ではある驚異的なプロジェクトが遂行されようとしていた。果たして人類は時空の構造を知り得るのか?――ローカス賞受賞の表題作、別の数学体系をもつ並行世界との最終戦争を描く「暗黒整数」、ファースト・コンタクトSFの最高峰「ワンの絨毯」ほか、本邦初訳作品を含む全7篇を収録。現代SF界最高の作家の最先端作品を精選した日本オリジナル短篇集第4弾。
[収録作品]
「クリスタルの夜」
「エキストラ」
「暗黒整数」
「グローリー」
「ワンの絨毯」
「プランク・ダイヴ」
「伝播」

「果たして人類は時空の構造を知り得るのか?」。おおぎょうといって、これ以上のものはないですね。ざっと、ざっと簡単に、なるべくわかりやすく「プランク・ダイヴ」がどんな話なのか、説明したい。
 時代は今からはるか未来、なんぜんねんご。肉体を捨て人間は、全員が、一立方メートルほどのコンピュータの中で演算される仮想空間で暮らしたり、つまりそうなれば、別に地球にとどまってる必要とかもぜんぜんないので、宇宙に飛んでいったり、していた。
 計算速度はおそろしく早いので、「主観時間」と「外の時間」の乖離はものすごく、だいたいでいって中身は千倍の速さですすんでいる。
 そんな世界。
 今の宇宙開発技術だったら、もろもろの関係で、近付くことすら難しいブラックホールも、そんなだったら、難しいことではない。
 まず、宇宙に飛ばすのはフル装備でなければほんのマイクロチップほどのプロセッサ、だけでいいので、すぐ飛ばせる。中の人間のことなんて気にする必要もないから、ぐんぐん加速できる。「光速の十分の一です!」とか。エネルギーとかも、最低限しか、いらないんでしょ? たぶん。今非常に紛糾している、エネルギー問題、とっくに解決!
 そんな風にして来ました、ブラックホールのまわりに。さてここから、より中心に近付こうとしているのですが、どこまで近付けるものなんでしょうか、少なくとも理論上でいって。
 まず中心、それ自体に行くことはまず無理なんですが、それ以前に、「事象の地平面」と呼ばれるものが、ブラックホールにはあって、それより内側に行くことも、またできないだろう、といわれています。
「事象の地平面」というのは、つまり、その限界まで強められた重力によって、各場所に中心へ向かう加速度がつくわけですが、その「事象の地平面」という、ブラックホールをかこう球のようになっているその境界では、その加速度がちょうど、光速と等しくなっています。
 でありますからして、それより内側は、当然、それよりさらに強い加速度が働くので、光速よりはやく、内側にのみ込まれてしまうことになります。
 光より速いものは、ない、とされていて、といってもタイムリーに言って、なんか、「ニュートリノが光速を超えた!」とかいって、ニュースになっていたんですけどこの間、どうにもあやしいものだし、だいいち、光速を超えないのは「質量のある、普通の物質」の話で、質量のない、特殊な素粒子は、かるがる光速を超えたり、普通しますので、とにかく大したニュースではないのですが、ともかく、普通の物質は光速を超えることがないので、光速以上の加速度が働いているところに入ってしまえば、そこはもう即ジエンド、もう出られない、ってことになるわけです。
 じゃあ、その「事象の地平面」のギリのところまで、どこまで近付けるのか、って話もありますけど。
 あと、行きはよいよい帰りはこわい的精神で、もう帰らないカクゴで、「事象の地平面」の内に入っちゃう、っていうのも、考えられない話ではなくて、この「プランク・ダイヴ」は、それをたしかやっちゃってるんですけど、だからまさに今の科学力の想像力の限界をいってるんですけど、その前に、前者の、「行きはよいよい帰ってきたい」の都合のいいパターンについて、説明させてもらいます。
 フリーのカメラマン、じゃなくて、フリーの落下って、そのやってる当人にとっては、無重力なの、わかりますかね? 今Aさんが会社の地位をおわれて、これじゃあ妻子を食っていかすとか、無理だし、いっそのこと、妻子には悪いけど、俺先に、ごめんなさい、里で暮らしてる両親にも、よろしく言っておいて、それじゃ、といって、マンションの十階から飛びおりたとします。最終的には血と肉の塊になってしまうのは、いたしかたがないとして、それまでの間は、なんというか、重力に従って落ちているから、こそ、重力を全く感じないように、なるわけですね。
 つまり、落下するものは、それ自体、重力の影響を受けないと。
 いうのは、われわれ生ぬるい、ぬるま湯につかった人間ども、ブラックホールの苛酷さを知らないものどもの、感覚であるのです。
 ブラックホール様ほどにもなれば、「潮汐力」というのがはたらきます。落ちてるだけで、微細な重力であればなんともないはずなのに、その落ちてる物自体に、強力な力がはたらくわけです。
 ウィキペディア様に、かくのごとく説明がありましたので、引用します。

潮汐力の効果は、中性子星やブラックホールといった、大きな質量を持った小さな物体の近くでは特に顕著になる。これらの天体に落ち込む物体は潮汐変形を受けて細長く引き伸ばされる(これをスパゲッティ化 (spaghettification) と呼ぶ場合もある)。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BD%AE%E6%B1%90%E5%8A%9B

 つまり、会社で立場を追われたAさんが、もう妻子をまかなっていけない、これはもうダメだと、全てをあきらめて、宇宙飛行士になって、人類の未踏の領域、ブラックホールの近くまで来まして、そして「こんな俺を見捨てず、今までずっと支えてきてくれた妻よ、突然押しかけてきて変な言葉遣いでこびを売ってきた、俺の身に全く覚えのない十二人の妹よ、そして反抗しつつも結局は俺のことを尊敬してくれたわが一人息子よ、ふがいない俺を許しておくれ」っていってその中心に向かってフリーフォーリングしていったとします。すると、まあどの辺からかはわかんないですけど具体的なところは、でも、たとえば足を下に向けて落ちていったとすると、足って、より中心の近くにあるじゃないですか、もっとも人間の身長だったら、ごくごくわずかですけど規模として、それでもその違いが決定的になって、足の方がより速く引きずられて、胴体の方はそうでもない、ってことになりますから、モーレツに足をひきちぎられる力がはたらいて、もう細切れにされるらしいんですね。
 という力が働くのですが、なんか人生に思い悩んだ末に前人未踏の大冒険をしでかすAさんの話はどうでもよくて「プランク・ダイヴ」に話を戻しますと、その中心に落とすのは、本当にペラ一枚の、数グラムもないようなプロセッサの塊なんですね。
 とすると、さっきいった「潮汐力」は、わりかし働かないことになります。でも、いったいどこまで行けるんでしょうか。
 みたいな、話です。
(つづく)