クロックムッシュを食べた事件(1)

 バーガー佐々木さんにクロックムッシュを勧めたから自分でも頼んでみたけど足りないんでジャーマンドックも頼もうと思います。
 あえてなんの説明もなくセンテンスを置いてみましたが、わからないと思うので解説していきたいと思います。
 僕はニコニコ生放送という、インターネット・映像ストリーミングサービスで配信をしているのですが、ニコニコ生放送(以下ニコ生)というのは、他の同型のサービスと違い、画面に「コメント」というものが流れます。
 白もしくは色付きの文字が、横書きで、右から左に流れていくのですが、そのコメントは、視聴者であれば誰でも入力できるようになっているのです。
 つまり、視聴者参加型ですな(キリル
 キリルおじさん、まずはパンツを穿いてください。
 そのコメントというのは、ふつうに放送している分には、外から見た場合、誰が打ったか分からないようになっています。
 ……これでドヤ(キリル
 キリルおじさん、前後ろが逆ですよ。ほら、ここ開くでしょ。こっちが前です。
 そかそか(キリル
 ……なんですけど、特殊なツール(ニコ海鼠麺とビューアーと呼ばれているもの)を使うと、その文字を誰が打ったか、等の情報を取得することができます。
 ……匿名なんじゃなかったのか。おじいちゃんてっきりJD(女子大生)を下ネタでからかってしまったよ(キリル
 たいがいにしてください……
 それで、特に雑談などをメインにする放送の場合は、その個人情報をあえて晒すことによって、恒常的な名前を付けることがあります(固定ハンドルネーム、略してコテハン
 そのコテハンが「バーガー佐々木」さんという人の話なんですけどね。
 この人は、もともと佐々木というコテハンにしていたんですが、偶然は重なれば重なるもので、その直後に同じく「佐々木」と名乗る人物が現れたんですね。
 それだけならまだ偶然にしてもそんなじゃないじゃないですか。もっとも、ネットのコテハンでかぶりやすい名前の双璧だと僕が思うのは「黒猫」と「さくら」ですけど。男性の場合は黒猫で女性の場合はさくらです。この名前、かぶって困ってるところに出くわした回数は数え切れないほどです。どうか、「この名前、いい!」と思ってつける前に、それと全く同じように「いい!」と思う人が、想像以上にいるということを、想像してください。
 で、ならわかるじゃないですかそういうのだったら。けどまず「佐々木」でかぶるっていうのが。しかもほぼ同時期ですよ。放送六ヶ月やってきましたが、その六ヶ月目に二人してきましたからね。
 しかしさらに驚くことには、どっちも実名だったらしいんですね。だから、二人目の佐々木さんに「あのー、ここによく来る佐々木さんっていう人がいてー、その人実名なんですよね。だからー、もし気まぐれに決めた佐々木って名前だとしたらー、他になんかいいのないですかねって」言ったときに実名ですといわれたときのショックたるや。
 もっとも、本名でなかったら、突然佐々木と名乗るのはおかしな話ですけどね。でも、二人して、ネットで実名を出して平気な佐々木さんが同時多発的に現れたというのは、ちょっと、すごいですけどね。
 それで、後続の佐々木さん(佐々木さん二号(仮))は、その場では「じゃあ『さ』という名前で」ってことになったんですよね。でもこんなちょっとした事情で生まれもった名前を矯め歪めそれの上げる悲鳴も聞かず削り取るのはちょっと悪いなと思って、たんですね。
 で一方先発の佐々木さん(佐々木さん一号(仮))は、なんかキャラ濃い人で、アナログ写真は撮るわ蓄音機は聞くわバーガーキングが大好きで他のバーガーチェーンにFのつく四文字を吐き捨てるわで。
 それで、佐々木さん一号の人は、これから「バーガー佐々木」と名乗ってもらうことにしたんですね。だって、前に佐々木さんいたからって、その人はそのまんまであとから来た佐々木さんの名前だけ腕をもぎ取られ泣き叫ぶその口を倍の大きさに裂き開かれ涙を流すその目すら眼窩がその暗い闇を覗かせてるような状態にするのは、申し訳ないじゃないですか。
 バーガー佐々木、みたいな、おたっきぃ佐々木みたいな、そんな感じで二人そろえたら平等なんじゃないかと思って。
 それで決めたという次第が「バーガー佐々木」の解説です。
(つづく)