お花見

今週のお題「お花見」

 お花見は日本の文化だ。われわれはそれを是非とも死守しなければならない。外に出ると雨だった。花散らしの風雨とでも言うつもりか。
 窓の外を見ると、電柱が全てかしいでいた。ドラム缶が転がる。四角いドラム缶であるはずが、ああも軽々しく転がっていくところを見ると、相当のものらしい、風雨は。ドラム缶の中に人がいてつむじを中心に髪の毛がグルグル回転しているのが見えた。
 より細かく言えば、つむじはドラム缶の角のところで常に跳ね上がるためにサイクロイド曲線を描く*1。そのためわずかに上下動するつむじがありそこから放射状に髪の毛が伸びて残りのスペースを全て花びらが埋め尽くしている。これが花見だとでも言うつもりなのか。
 外へ出ると傘は一瞬でへし折れるし花びらが口の中に入って「わっぱ」「わっぱ」と言いながら進むことになる。風は常に真っ向から吹きつけて来て、どの辻を曲がっても常に正面から吹きつけるから、風向きがそのつど変わっているらしい。
 ふだんは大学生四人分のショルダーバッグやらリュックサックやらを、ビニールシートの四隅に置いて(と言ってもその重みは教科書やら参考書やらで培われたものではなく、マンガやらラノベやらがぎっしり詰まっているからなんだけれども)風で吹き飛ぶのを防いでいるのが、今日はペグで固定してある。飲もうとしたそばからチューハイの中身が風に巻き込まれる。おでこにネクタイを巻いた赤ら顔のおじさんは「ごと」飛ばされて、ネクタイが高い木の枝にからまって、おでこから首に落ちてきたネクタイは引っ張れば引っ張るほどよく締まる。良い大人が首をかきむしってもだえている様を先程の学生が笑って見ている。お日さまも笑ってる。成層圏の上はカンカン照りだった。

*1:サイクロイド曲線は、実は円におけるそれしか指さないらしい