一人で鎌倉に(4)

 というわけで、夜勤明け:休み:休み:休み と並んでいる夜勤明けの日の18時に東京を発った。池袋からはいつもの湘南新宿ライン。これだけ長距離になると、どちら行きの線が幾時まで残っているのか、感覚では見当がつかない。もちろんそうでない人もいる。保坂和志の「この人の閾」というすばらしい小説の中には、小田原から毎日東京へ出勤しているダンナ、というのが出てくる。その人は幾々時までに電車に腰かけているために家からバイクで最寄り駅まで飛ばして、……という話もあった。残念ながらそういったすばらしい感覚を僕は持ち合わせていなかったけれどもむろん18時に最終というのはありえない。明けで家に帰ってから出発するまでずーっと寝てたとはいえ、神経が高ぶってしまって車中は寝られなかった。日は既に落ちていたので、車外の景色も茫漠としていた。鎌倉駅の二つ手前の大船駅にホテルを予約していた。社会人になってから、自分で計画を立てて泊まりに行くということが初めてだった。そういうシステムになっているとはいえ、ただインターネット上でクリックするだけで、自分が泊まれる段取りが組まれるというのはどうもフワフワした気分になる。折り返しの電話すらなかった。そうこうするうちに大船駅に着いて、出発する時に低く低く見えていた赤い月は、やや高く真っ白に輝いていた。ホテルにインするまでまだ時間があったので、それまでに外で飯を食ってこないといけない。ホテルは最低限のプランにしたので朝食しか付いてこない。それでもぜいたくなくらいだ。大船駅はあの辺では栄えている方の駅で、東京で言えば荻窪駅くらいの規模はあった。駅周辺も栄えているけど東口は普通でも西口は小高い山と観音様がこっちを見すえている。
(つづく)