個人的メモ

 長らくルーズリーフやらノートに書き溜めていた日記というかメモというか、があったんだけれども、今日それら全てをまとめてみてびっくりした。厚さは人差し指の先から第二関節まで達する。概算だけれども枚数は300枚はある。事務などで使う一番大きい二穴のバインダーを今日買ってきたんだけれども、紙の空気を抜いて押し込まなければバインド出来なかった。これで三年分になるけれども、さらにその前に三年分、2007年からのメモも残っている。その頃はルーズリーフを使っていなかったのでノートになるけれども、それは通し番号がたしか17までついていた。

 セロテープが欲しいけど、家のすぐ前にあるコンビニを使うのは、グローバリズムに加担するような気がするし、他にも何か良い本が発売されていたら買いたいので、商店街の方へ足を運んだ。
 平日の昼間なので、子供や老人の姿が目立つ。よく晴れた夏の日だった。人々はすれ違うたびにアイサツを交していた。「どうも、田中さん」「おや、木村さん」という具合だった。それに小学生が加わる。「こんにちは」「はい、こんにちは」
 日差しがそれらの光景を照らす。マンホールから、何か得体の知れない黒い塊が這い出してきた。「こんにちは」「いらっしゃいませ」
 黒い塊は両生類のような体表を持っていて、それがどうやってか、アメーバのようにぜん動によって動いていた。その対流によって目玉が出たり引っ込んだりした。
 うまい具合にその中からセロテープが出てきたので、また内部に埋まる前にそれを取り出して、家へ帰った。
 人がいないので当然だが、中はシンとしていた。目張りをしているので外からの光は一切入って来ない。防音、遮光の壁なので、ドアを閉じてしまうと息苦しさを感じる。
 セロテープを一メートルくらい引き出しては、すでに直径三十センチメートルくらいにはなっている球体に、さらに巻きつけていく。あたりにはセロテープ独特の青臭い匂いがたちこめていた。
 その中心には、もう二度と出てきてほしくないものが入っていたと思うが、何を入れたのかは忘れてしまった。たぶんそっちの方がいいんだろう。
 今日の分の作業は終ったので、一息ついた。ドアが勝手に開いた。カギは閉めていたはずだ。部屋の隅から虫が這い出てきた。ホタルだった。それによって、部屋が一気に明るく照らし出された。
 とても微弱な光量なのと、そもそも黒いフェルトのような表面の錯覚で、壁全体がたえず動いているように見えた。窓を開けた。外はすっかり暗くなっていた。外灯が部屋に差し込んでより暗く見える。
 外気を吸おうと思って外へ出た。もう深夜近いので、道路を走る車もまばらだった。人力車が通った。中に誰もいないし、曳いている人もいない。子供の泣き声が聞えた。
 遠近法によって樹木が道路を挟み込んで、消しているようだった。並木というよりはうっそうと茂った森が、道路の周りにあった。
 朝が来た。樹木は消え去ってまた商店街が地面からせり上ってきた。

 朝起きると、布団の上に見覚えのない大きい水晶玉のようなものが乗っていた。私はいつも布団をしまう習慣がないので、そのままにしておいた。
 夕方帰ってくると、その水晶玉はまだ布団の上にあった。覗きこんでみると、水晶玉の中には小さい水晶玉が、またその中には……という調子で、どこまでも眺めていられたが、ついにその終着点は見つからなかった。そのままにして、今日は寝ることにした。
 翌朝目を覚ますと、きのう水晶玉のあった位置を中心に、細かい水晶の破片がちらばっていた。一人暮らしの我が身には、これは危険すぎる。ガムテープと軍手とで、慎重に片付けた。一息ついてテレビを見ると、信じられないくらいくっきりと映っていた。

 駅の前に一階はブックオフで二階は美容院、その上はアパートになっている建物があった。しかし不思議なことに、美容院に上がっていく階段が見付からない。まさかとは思いつつ、ブックオフに入ってみると、美容関係の本が全く抜き去られていた。美容のコーナーがないのではなく、そのコーナーがあるべきところだけ、全く棚がガラガラだった。そして上へ行ってみると、その本は全てそこに集まっていて、数人の美容師が電気も付けずにそれを読みあさっていた。

 もちろん、日記は営々と今日まで続いている。