入眠時幻覚

 ずーっと前に睡眠導入剤を買った。そんなこと、自分でもすっかり忘れていたにもかかわらず、この日記には詳細な体験記が残っているので、改めて日記というのはなかなか貴重ですごいものだと思うけどそれはともかく、夜勤前で寝溜めとかなきゃいけないのにすっかり眠くなくなってしまった。しばらくこんな変わった業務形態はやらされていなかったので、自分のあがり症を舐めていたのかもしれない。久しぶりにこの「ドリエル」が役に立つときが来た。
 作家のマルセル・プルーストが没後九十年とかいってツイッターで話題になっていた。幻覚とは非日常の感覚と思われがちだけれども別にそういうわけでもなく、誰にでも経験のある一つに入眠時幻覚というのがある。読んで字の如くだけれどもマルセル・プルーストはそれに常人とは違う執着を見せていた。入眠時幻覚こそが彼の人生の全てだと言っても言いすぎでないくらいだけど、じゃあ彼の人生全てが夢に浸りきりだったかと言えば、きっとそういってイメージされるような物とも違うはずだ。夢が活きてくるのはやはり現実生活があってこそだ。彼にはそれ以上に「書くこと」に対峙する頑とした姿勢があった。
 ラピス・ラズリというのは本当に実在する宝石だったのか。だとしても「耳をすませば」に出てきたぐらいに輝くはずもない。現実よりも魅力的に世界を感じさせることが出来なければフィクションは意味がない。あれが、一般に浸透した中では秀逸に「書くこと」の苦悩と喜びを表現した作品であることに今更ながら気が付いた。明日の夜勤に「なんか腹が減ったら食うもの」を持って行けと言われたけれども絶対にカロリーメイトを持って行くだろう。雫は書くことと生きること、夢と現実のあわいに足を踏み入れつつ、その合間に机の引き出しからカロリーメイトを出し、それを咥えながらまた書いていた。なんであんな貴重なシーンのことを忘れていたのかわからない。