文学フリマ/夜勤

 文学フリマに初めて行った。
文学フリマ」というより「文芸フリマ」と言ってた方がいいんじゃないかというような、いろんなジャンルがヌちゃまぜだった。そういうヌちゃまぜの状態を、ネットでは「文芸」と言っていた気がするけれども。
 いわゆる文学といえるものも中にはあって、それは良かった。ブースはひたすら平面に並べてあってジャンル別けがされているわけでもなかったけれども、漠然と似たジャンルが固まっているということはあった。詩はこっち、ノンフィクションはこっち、のように。
 やっぱり作家然として改まって小説を書こう、というような人々はさほど面白くなかった。僕が心を惹かれたのはこの二人だ。
 一人はあるコンピューター技師のインタビューの記事を自ら翻訳した冊子と、そのコンピューターの実物をテーブルに置いていた。コンピュータといっても、それは電子的な構造に依らない。歯車で組み合わさったものだ。ダイアルをケタ数に合わせて設置し、たとえば「32768」としたとする。この機械は円筒形で、数字は円周についている。天のところに回せるレバーがついていて、それを一回転させるとx1、5回転させるとx5されるのだ。
 かけ算しか出来ないけれども、このような純粋に物理的な計算機がこのサイズにおさまっているのは奇跡的なことなんだそうだ。
 というようなことを、その翻訳者は滔々と説明してくれた。
 二人目はある大学のサークル五人が小文を寄せ集めたものだった。ヤマジュンの批評めいたものとか、ドクター中松ハウスに入った体験記とか、そのような濃イい内容ばかりだった。このジャンルを問わない感じがいいし、その内容を説明してくれた売り子の喋りも面白かった。
「えーっと……これはある女の子がある老人と会って、……心を通わせる……ちょっとしたお話です」
 とかブツブツと言っているような小説家気取りの売り子なんかよりよっぽど面白かった。しかし、そういう人達を生で見るのもなかなか楽しかった。


 あしたから、夜勤がはじまる。前日には寝まくっておくのがいいと言われた。寝まくるのは得意だ。