ホモの人

 葉も艶やかな牡丹の植木にゲロの吐きかけられる無情な街池袋を歩いていたら、突然見慣れた顔を雑踏の中に見いだした。
 一瞬の後にそれは似ている別人だということが分かった。顔はホモっぽく、かといって百人が百人ホモの印象を抱くかというと少し疑問を感じる程度のホモ顔で、タイプとしてはまじめに柔道でもやってそうな、好青年的ホモで、体はがっしりしているが色白で、特に理由なく常に頬が赤い。角刈り。
 これに似た顔を半ば習慣的に見たはずだけど、思い出せない。余りにもやもやするので歩きながら聞いていたラジオを止めて一心に思い出そうとした。
 結論からいえば未だに思い出せない、いや、ホモい出せない。僕はそんなに交友関係は広くないから、よく通うところを一つ一つ潰していけば、すぐ分かるはずなのに、思い出せない、いや、ホモい出せない。
 どこかのお店の店員か? でもあの店もこの店も、ホモの人の顔は見あたらない。学校時代の先輩後輩か? 思い出す上でそういう感触もしない。
 結局謎のまま、そのホモらしい顔は僕の後頭部から流れ出していく。そんな日常を送るPさんです。