樋口一葉

 翻って樋口一葉、翻ってというか、荷風山人の日記自体は、直接触れてなんやかや言うことがなかったですが、ともかくフィーチャーしてきた永井荷風こと永井壯吉は置いといて、樋口の日記に移りたいと思います。
 今なお最先端の現代小説家に影響を与え続けているといって過言ではない樋口一葉、というのは、例のアンソロジー(?)、樋口一葉の現代語訳と題した短篇集の、その翻訳(?)者を一瞥しただけであきらかなのですが、


阿部和重藤沢周ですよ。……他の人はよく知らないんですが。ともかく今読んでもどこか新鮮な、僕が思うたとえばことでいえば、文の終りに至るまでのめまぐるしさ、それに尽きるととりあえずは思っていますが、それが現代性、といえるかどうか、僕はそう思っていますがとにかく、今なお現代的な作家たりうる樋口一葉、本当にたりうるのか、日記で見ようと。
 体裁さえちゃんとしていれば、絶対、「断腸亭日乗」と比すべきほどのポピュラリティーを獲得していると僕は信じますが、そうは問屋が Don't sell it. というわけで、「断腸」よりもずっとグッと、人に読まれることを想定してない(それでもけっこう想定してるけど)、っていうか「断腸」の読まれ意識度合がかなり日記っていうには異常なくらいだからこそスタンダードになれたんだと思うんですけど、でも逆にそれって日記の生々しさみたいな、消えちゃうんですよね。
 なんですけど、とにかく現代たりうるかどうか、そのたりうリティを見ていこうかなっていう、っていうか、文学的な深い現代性っていうのは、思えばそう易々と指し示せるものじゃないんですけど、さぐりさぐりなんですけど、「本当の意味での『現代性』とは」みたいな、そういう大ゲサなやつは、まあ措くとして、日記にあった、「ああ、今でもこういうの、あるよなあ」っていうところ、単に引こうと思っているのです、まあ取っかかりには、いいんじゃないかなって感じの。
 場面は花見、本当に日記の最初の方なので、学生時代かそこから抜けて間もない頃の、その学友なんにんかと、花見をして、それが思いの外盛り上がって、帰るのは八時か九時、おそくなったその帰り。

咲(さき)あまりたる花の三つ二つ散(ちり)みだるゝは小蝶(こてふ)などのまふやうにみえてをかし。酔(ゑひ)しれたる人の若き君たちにざれ言(ごと)などいひかくるぞろうがはしくもいとにくし。

(前の方に「今もうほぼ散りかけてるってみんなに言われて来たけど別にそうでもないじゃん」とある)まだ咲き残ってる花が三つ、二つと散っていく様は小蝶が舞っているように見えてみごとだ。酔っ払いが若い女たちにフザけた口を利いてくるのはうるさったらしく見てらんない。
 今も見かける光景じゃあないですか。
 次は僕の日記です。Pさんです。
 なんか僕の良く行く公園に至るまでの道で、しょっちゅう車が故障してて、それを直したりしてるのをよく見かけるんですが、今まで特にそれと意識してなかったんですけど、漠然と「ここ事故多いのかな」とか、今考えると爆笑ですけど、思ってて、ところが今日も見かけて、でも見かけたもの自体はいつもと変わんない、故障した車なんですけど、明らかにジャッキアップ、っていうのか、車を人の胸の上くらいまで、けっこう高々と、浅薄ながらこのあいだ教習所で習ったところでは、タイヤ交換とか、する高さじゃないし、それでアッて、あれだけ見かけてたのに、それについて考えるの今日がはじめてだったんですけど、アッこれって、もしかして修理、請け負ってる? つまりですけどこれは、なんらかの修理する人がここにいるのでは? って今日突然思い当たったんですけど、でも僕それほどバカじゃないだろっていうのは、ここは別にそういう施設明らかにあるっぽいところじゃないし、っていうかあったら絶対そう思って見るし、だからつまり、その周辺にはあきらか分譲、わりとオランダチックだけどそのレンガの温かみを隣にコピーアンドペースト、していって、はい作りましたよっていうような、家家家しかないところで、じゃあそんなところで修理請け負うってどういうことだろうって考えたんですけど、それしかない、これ結論っていうのは、やっぱり、ある人、たぶん男ですけど、一家の父たる資格を持った中年くらいの男の人が、趣味で、そういうの請け負ってるのでは、それしか考えられないし、思ってたんですけど、ハタと思ったのは、それ技術的にはいくらオッケー出てても、法律的にオッケーなのっていう、つまりどっかで事故った車を、はいここまで持ってきましたで修理はじめるのって、JAFとかあって、教習で習ったんですけど、みんな呼ぶことになってるやつ、よく知らないですけど、それ的にありなのって思って、またしてもハッて、なったのは、でもなんかそういうの見た目によらず正式に許可とか取ってて、ここ実は普通のオランダ風分譲住宅、といってもオランダとか、ぜんぜん僕適当に言っただけだから、まあ普通の、茶色と赤の間くらいの明るいトーンっていうか、茶色だとまあ「家」かなって、自然に見えるくらいだけど、それよりちょっと色的に主張が強くて、そんな色合いを基調とした家、のなかのどれかの一人だけど、普通の家に見えてそのじつ、インターネット上では、わりかしちゃんとした修理工ですよって、なってて、