消しゴム

 Pさんです。こんにちは。こんにちは! こんなところからまさかのこんにちは! まさかこんなところからこんにちは出来るとは!
 ……さて、「消しゴム」についてのお話します。学校を卒業してしまうとボールペンやら何やらを使う機会の方が増えましてめっきり使用頻度の減る消しゴムです。「消せるボールペン」の登場により存在意義が危ぶまれる消しゴムです。それは危ぶまれない別に?
 僕の消しゴム歴は「まとまる君」から始まりますでしょうか。知ってます?「まとまる君」。名前は知らなくても消しクズが一つにまとまる消しゴムとなれば馴染みの方もあるかと思います。
 鉛筆の粉を一杯に吸った黒い塊がどんどんまとまり、それを机の穴に押し込んだり、とんでもない量まとめてグネグネ練り回したり、子供の頃はずいぶん汚いマネをしたものですね。
 たまに友人から「まとまらない」消しゴムを借りて使うと、「うわっ、まとまらねえ!」という違和感から危うく発狂しかけます。落ち着いてPさん! まとまるやつ、ここにあるから、ほら。俺に触るな! ウギャアアアァァァオウ。
 その反動か、今は逆にまとまらない消しゴムの方がいいような気がしてます。
 消しゴムを使い切ったことがないというのはアルアルでしょうか。手に持った小さい消しゴムは思いの外消費が少ないですね。もしくは使っているうちに内部崩壊、亀裂が入りアッと思ったときにはもう手遅れ、使えば使うほどボロボロになるので新しいの、という流れもあったかと思います。
 シャーペンの裏の消しゴム、使えば使うほど紙面が汚くなりますね。
 練り消しというのがありましたが、あれは引き延ばすと無数の細い糸が発生して、実に愉快でしたがうちにはなかったですね、実用的じゃないからでしょうか。僕が親になったあかつきには子供に練り消しを買うような親になりたいと思います。
 Tさん(19才女性)は現在大学生、叔父の家で育てられた関係上、「勉強だけはできないと」という観念により小学生の頃から勉強ができる人でした。その分友人は少なかったものと記憶しています。
 今日も机に就いて予習を余念なくやっていると、肘を突っかけて「MONO」消しゴムがコロコロと床に転がっていきました、前の席の方に。
 運の悪いことに前の席に座っている人のちょうど足と足の間に転がっていってしまいました。勝手に取りに行くのは難しいので、声をかけようとしましたが、……。
 勉強に夢中で気がつかなかったのですがいつの間にか前に座っていた彼女は、講義の始まる前だとはいえ、シャカシャカ鳴る耳にかける型のヘッドホンで不快な高音をまき散らしていました。それに髪は脱色のよく効いた金髪、黒いジャケットになんかわかんない鎖が掛かってて、見た目にもうるさい。何こいつ、よくここ(大学)入れたな? 不正か? 一瞬のうちによぎる毒づきはTさんの頭を跳ね回りました。
 何となく「触りたくない」と思ったので、とりあえず声で「すいません」と言ったのですが聞こえるはずもなく、何回か、萎縮した声で呼んだ挙げ句に、シャーペンの裏側で後頭部をツンツンしました。
 振り向いた顔には大きなサングラス。ここどこ? ほんとに大学? Tさんの混乱をよそにとりあえずヘッドホンを外してくれました。「消しゴム落としちゃったんですけど、取ってくれますか?」
 不自然な間といいますか、彼女はサングラスの下から執拗に凝視してから、なにも言わずにめんどくさそうに足下に屈みました。
 Tさんの机に消しゴムを放り投げるそのぶしつけな動作にTさん半ギレですが怖そうな見た目に何も言えません。その瞬間にこのことは帰ってからブログに書き殴ろうと決心したのですがそれは遂行されませんでした、なぜなら。
 パンキッシュな格好をした彼女は不思議なことを言いました。「鏡でも見てるみたいだね」
 スッと大型のサングラスを外しますとそこにある顔は、Tさんとまるでそっくりだったのです。
(つづかない)