1、大津駅

 大津駅は虫が多かった。小さい虫だ。電車が通るたびにワッと散ってはまた落ち着く。駅から湖岸まではゆるやかな坂になっている。
(時間ではなく場所を基準とする記述法)駅前はよくわからない庁舎で湖岸まで伸びる四車線の真中を花壇で埋めている道があり、そこを下っていった。下り坂の左側には「○○法律事務所」とか「○○弁護士」とか、そういう建物が多かった。ふいに道の脇が崖のようにこそげて、網フェンスの下に幼稚園の庭があった。到着した七時半頃は子供はいなかったが昼間に見たら園児にあふれて夜中は誰もいなかった。その幼稚園はキリスト教系で道沿いに見ると一階、園庭から見ると二階くらいになるそこは教会になっていた。
 もっと下ると道と道の脇の断崖は同じ高さになった。土地柄なのかその周りは並んだ商店に混じって寺社があった。町のポスターには「合掌」をイラスト化したキャラクターが、近々行われるフェスティバルの宣伝をしていた。浅草に並んでいるような感じの商店街で、歩道をおおう低い庇の梁に沿ってツバメがいくつも巣を造り飛び交う。
 JRの駅が「大津」でそこはあんまり栄えていないが下って湖岸に張り付くようにある京阪電鉄の駅「浜大津」は駅前に二十階建てでそれが団地のように横に延びて彎曲している巨大なホテルがあったり何種類かの船着き場があったりと、玄関口にふさわしい盛り上がりがある。夜には岸辺の鉄柵にもたれかかっているカップルがいたりする。夜釣りをする人がサオをいきおい良く投げかける「ヒュン」という音がたまに鳴る。はじめは何の音かわからなかった。