苛立ったので妄想

 派手なアロハシャツを着たオジサンが、首から車の鍵とストラップとスマートフォンをぶら下げてやってきた。いや、首から何かを繋いでぶら下げる物のことを、ストラップというんだけれども。
 オジサンとはちょっとした乱闘の末に和解し、午前二時を回った頃に一緒に立ち飲み屋に入った。そのときに、そのオジサンから聞いた話。
「近頃の若けえもんは、礼儀っちゅうもんを知らん。今いる立ち飲み屋だって、起業したのが十八の若造だろ。だから店員も礼儀知らずなんだ。ツマミが豚キムチ丼しかないって、どういうことだよ」
 事実ここの看板には「立ち豚キムチ丼屋」とあり、サービスとしてアルコール類を出しているだけなんだけれども、話を遮るのが怖かったので、それを言うのは止めておいた。
「だからよ、俺の息子だけは、そうならないように、教育だけはしっかりしておこうって決めたんだよ。
 今日日の公共教育機関なんて、まったくアテにならないだろ。モンスターペアレントとかいって、給食費を払いたがらない親がいるって言うけど、気持ちは分かるっちゅうものだよ」
 店員は、もう三十五にもなるけど、十八の社長の配下にある。もはや何とも例えがたい動物的卑屈さでもって、ひたすらグラスを磨いているだけで、一切動こうとしない。店の向こうの方で、板垣退介似の老人と、コンドームを頭から被っている若い男が殴り合いのケンカをしているのも、一向止めようとしなかった。
「それだって、完全に学校側の過失であり、そのモンスターペアレンツのやったことが正しいと主張するわけじゃないけどよ。その気分を生み出させる根がどこにあるかってのを考えずに、一方的に事実面を強調し過ぎるのも、おかしな話だと思わないかね?」
 これだけ理路整然としたことを言いながら、今年で十九になる娘に LINE のチャットを返信するところなど、さすがだった。
(中絶)