祝盃 ―はじめてのゆうかく―

(副題は勝手につけました)
 はじめてのゆうかく、その帰り。

……第一に私はよくあんな不知案内の処へ出掛けられたものだと驚く。驚き呆《あき》れるにつけて私はかかる無類の冒険を敢《あえ》てせしめたその原動力について、更に烈《はげ》しい驚きと不思議とを感じたが、それに反して生れて初めて経験した事の印象その物が、今になってはかえって薄弱不明である事を怪しんだ。従って私はあんな事があれほどまでに私の精神肉体両方を苦悩せしめたのかと思うと、何《なん》に限らず現実の予想に伴わなかった時経験する落胆気抜けを覚えた。

永井荷風『新橋夜話』「祝盃」より)
 この気持ちも、よくわかる。