寝れずがたり
またたった一冊の本を借りるために家から渋谷まで電車に乗った。傷害事件のニュースからまだ一週間も経っていなかったのに、もう副都心線渋谷駅は平然と人を流していた。流れるまま流されるままその流れを制御すら駅はしようとしていないかに見えた。
流線形でラジエーターのような縞を用いひたすら幾何学的なこの駅は、もう端から人間というものを欲しすらしていないかに見えた。
外は線条の雨が降っていて、降れば幾千人が傘を差し止めばそれを閉じていた。
クモの糸のように縦横に車道の上に架かっている歩道橋のある所に差しかかったら、急にコンクリートで護岸されたドブ川のすき間が目に入ってきた。両脇の建物はロシアの裏通りに面したマンションのようだった。他全部渋谷でそこだけロシア。人の流れでそれを眺めるだけの暇はなく流された。