断腸亭日乗

 みなさん、ごきげんよう。青空文庫の工作員、米田ことPです。
 永井荷風は小説家としても有名ですが、戦争期をその冷静な目で見すえた詩情あふれる日記『断腸亭日乗』を著したことでも有名です。
 永井荷風の著作権が切れたのは去年。以降僕含め有志の尽力により数多くの作品が青空文庫に登録されました。
 その中で最も見どころと思えるのは、……
 図書カード:日和下駄
 いやいや。
 図書カード:すみだ川
 も、最高なんだけれども。やっぱりこれです。
 図書カード:濹東綺譚
 今のところ公開されている中で特にこれという代表作はやっぱりこの『濹東綺譚』に限ります。もちろん今校正待ち中の『つゆのあとさき』、それから『新橋夜話』、『あめりか物語』に『ふらんす物語』と、小説で「どうしてもこれ!」というのはこの辺にまとめられるでしょうか。
 永井荷風は非常にリアリスティックなので(大ざっぱだなあ)、これら小説と同じような魅力を諸エッセイは持っています。↑の日和下駄しかり。
 ナミイワ書店から出ている『荷風随筆集』の全てが、有志の手によりこれも青空文庫に登録されています。数多の随筆は、ただ読んで辞書引いてるだけで漢字力が上がっていきそうなくらい、滋味あふれる文章で、わたしたちがふだん思っている「なにもない日常」の中に、いろんなものが隠れている、というか、その日常を受け取める「スタイル(文体)」によって、こうも美しく寂寞とした世界が広がるのか、ということを、まざまざと見せつけられます。
 それは永井荷風の生きていた大正の世を過ぎて消え失せたのではなく(そう思うなら、荷風の生きている時、すでになくなってしまったものをかき集めるように歩を進めていく『日和下駄』を読んでみるべきだ)、今もなお残っているがまさに消えゆこうとするものの中に、たくさんあるのです。
 本当に柴崎友香永井荷風の継承者だなあと思うのはこのような点で、先ごろ群像に発表された「ここで、ここで」では、展望台や観覧車なんかよりよっぽど良い景色がながめられる、大橋を歩く描写があります。
「古き良き時代はもう過ぎた」? 今がその時だっつうの。これもまた柴崎友香の「寝ても覚めても」のどこかに似たことが書いてありましたが、そう心に刻むことにしようと思います。
 ……なんの話だっけ?
 そうそう、その永井荷風の代表作といえる『断腸亭日乗』、この最初の巻を僕が入力して、この一年くらいずっと、校正の人が現れるのを待っていたのですが、さき頃ようやく、その人が現れてくれました。
 http://www.aozora.gr.jp/index_pages/list_inp1341_1.html
 小林繁雄さんというのは、青空文庫の内部であらゆる保守作業をこなしている「呼びかけ人」のメンバーでもあります。
 ここにある「はしがき」と「巻之一」は、本当にどっちも短いので(最初の巻だから年の途中から書きはじめてる)、きっとすぐに校正も終わると思います。そしたら、青空文庫で、『断腸亭日乗』が公開される、長い長い道のりのその一歩目がようやく踏み出されることになります。
 本当に、長い長いので、誰か手つだって下さい。
 「巻之二」が鋭意入力中です。