ブックストッパー(3)

 かくして神保町にある三省堂書店で手に入れたブックストッパーですが、これメーカー「トモエソロバン」なんですけど、みなさん知ってますか、トモエソロバン。
 僕が見てきた限り、ソロバンを買おうとするとみんな「トモエソロバン」でした。量産型のソロバン、もっともそんなのがあるとすればですけど、のシェアは、きっとみんな「トモエソロバン」なんじゃないかと思えるくらい、いうなれば、同じ算盤でも電子計算機でいうとマイクロソフトくらいのシェアをほこっているのではないかと思えるような、あのトモエソロバンです。
 が、この「ブックストッパー」を作っていると。今のところそこまで市場が安定していないブックストッパー業界なので、もしかするとソロバンに引き続き長いトモエソロバン独占状態に突入し、いつか裁判所に独占禁止法で訴えられ、かつてはしいたげられてきた「グレープソロバン」が急に台頭しはじめ、「スマートブックストッパー」を開発し、ソフバンや au と提携して……まあいいや。
 とにかくそのトモエソロバン製のブックストッパー、広告がなかなかいい味出してます。
 まずパッケージなのですが、あのなんだろう、指輪入ってるみたいな厚紙のケース? 断面で見ると上と下から「凵」がかみ合ってるようになってるやつ、説明下手ですけど、みたいなケースに、なんていうか、ファックスでプリントしたような商品の絵の紙が巻いてあって、要するにかなり安っぽいです。
 その写真がこれです。

「これは便利」。
 自分で言っちゃってます。こういう広告の感じに敏感な人は、これだけでけっこうクると思いますが、この中に入っている説明書きの、「特徴」の項目がさらにすごいです。

■特徴
・受験勉強の必需品
・ページを手で押さえるイライラ解消
・書斎に手放せない利器
革命的な文鎮である
人に贈ってよろこばれる
ユニークな発想である
写真立てにもなる
時刻表のページを押さえるのに便利
・机上の整理に役立つ
株式四季すごく便利
辞書、六法全書などの厚い本にすばらしい効果
・料理の時、料理本を押さえておくのに重宝である
囲碁、将棋を本にて研究するのに便利

(強調筆者)
 これ、見れば見るほど味が出てきます。
 本の種類をいちいち名指しすることで、項目数を増やしています。特に「株式四季」。
 この欄を書かされた人が、上司からどんな風に言われたか、完全に想像がつきます。
「おい」
「はいなんでしょう」
「ここ書け」
「新開発のブックストッパーの特徴欄ですね。どんな風に書きましょう」
「とにかく利点だけ押せ」
「でもそれだとウソ臭く……」
「いいから」
「はあ……」
「それから、特徴である利点は、多ければ多いほどいい。なんでもいいからたくさん書くこと。いいな」
「は、はあ……」
後日
「おい、なんだこれは」
「こないだ頼まれていたブックストッパーの特徴欄ですけど?」
「それはわかってる。なにを書いてきたんだって言ってるんだ」
「はあ……。言われた通りにやったつもりですけど」
「ああ? 言われた通りにやりましただァ!? 言われた通りにやるのが広報の仕事かよ。創意工夫だろ」
「あー」
「見ろよこれ、『〜〜に便利である。〜〜に便利である』。全部一緒じゃおかしいだろ。変えていけ」
「はー。おおせのままに」
「それから、『本を留めるのに便利である』って書いてるが、本っつったって、いろんな本があるだろ。それ一つ一つ挙げてけば、おのずと欄が増えるだろう」
「あーはいはいやりますよ」
 まあたしかに、使ってみたらそれなりに便利でありはしますけど……。

ブックストッパー

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