明日買うもの

 働き始めてからは、とても取れないほど長い休暇をもらったあと、きのうが夜勤入りで今日が明けなので明日は休みだが明日買うものが一杯ある。
 休みをもらったのは背中の靱帯がねじくれて動けなくなってしまったからだが、職業柄、そのことはまたたく間に正確な形で噂として広まったらしい。腰である、いや背中だ、骨をやったわけではないらしい、なんだ筋筋膜性か、それでも恐いものだ、姿勢が悪かったのだ、などなど。その噂の残余が、一週間ぶりに出勤した自分に向けて漂ってくる。
 明日買うもの:単三乾電池6本×3。Korg volca keys。Korg volca bass。Korg volca beats。水筒。わびの菓子。デジカメも欲しい。クラクラするような出費は、欠勤によってさらに切り詰められたものとなる、かと思ったのだが、ここには有休が充てられた。労働の基準法というものが、この世界には存在するらしい。
 かつてない休みの間に、街を出歩くのは見慣れた街でも徐々に色合いが変わり、最終日には黄色くなるまでに変色していた。北野ブルーではなく北野イエロー。かつて、死んだ父がなんでか大事にしていたビデオが、全体に黄色く変色していた。しかしノイズは走らずアナログ独特の鮮明そのものだった。内容は全く覚えていないけれども、色によって世界が変わるということを感じたのは、それがたぶん初めてだ。
 この黄色くよどみ/澄み渡った世界をもう一度漂いたいと思うので、明日はひたすら近所を歩いているかもしれない。近所は様変わりした。気がつけば、ルーティーンである道以外をたどることが少なくなったので、ある敷地がそのまま礫として積まれている、ほんの少し違うが何も違わない分譲住宅で埋め尽くされている、不景気な駐車所がのさばっている。蓬々と篠竹が伸びている。それらが全て傾ぎ、黄金の液体となり暮れ果てる。